後見人に就任すると、金融機関で後見人就任の手続(後見設定手続)をします。この手続をすると、後見人以外の者が口座からお金を引き出せなくなり、財産が保全されます。後見人選任を裁判所に申し立てた動機として、本人(被後見人)の経済的虐待が問題となっている場合には、特に速やかな手続が求められます。そうでないと、後見設定手続を怠っている間に、本人の口座からお金が引き出されてしまうかもしれません。

ところが、後見人に就任したにもかかわらず、速やかに金融機関の手続をされない方がおられます。サボっていて手続が遅れているわけではありません。登記手続が完了し、法務局から登記事項証明書を取得できるようになるのを待っているのです。就任時に受け取る審判書と、裁判所に自ら請求して取得する確定証明書があれば、金融機関で手続はできます。登記事項証明書の発行を待つ必要はないのです。ところが、このことをご存知ない方が多いことに最近気付きました。

後見人には財産を保全すべき義務があります。必要な手続きを速やかにしなかったがために、財産が流失した場合、その責任を負うのは後見人です(善管注意義務違反)。後見人に就任したら、審判書と確定証明書を持参し、速やかに金融機関の手続をしてください。

もう1つ、最近気になったことがあります。ある信用金庫で後見人就任の手続をした際に、本人の身分証明書の提示を求められたのです。しかし、総務省行政評価局というところが、金融庁に次のとおりあっせんしています。

「必要な本人確認を行いつつ、成年後見人の負担軽減と金融機関の実務の円滑化を図るため、以下の措置を講ずる必要がある。

① 成年被後見人名義の既存口座に後見設定する際の本人確認については、多くの金融機関が「既存口座への後見設定時、成年被後見人の本人確認資料を登記事項証明書のみとする」という対応に肯定的であり、また、現にそうした取扱いをしていることから、このような実態を金融機関に周知すること。

② ①について警察庁に情報提供することにより、認識を共有すること。」

https://www.soumu.go.jp/main_content/000720609.pdf

つまり、本人確認は必要ないということです。既存口座であれば、口座開設の際に本人確認をしているので、重ねて本人確認をする必要はありません。さらに言うのであれば、後見人選任の際に戸籍等で裁判所が本人確認をしているのですから、新規の口座開設の際も本人確認は必要ないはずです。

以上に限らず、不合理としか言いようのない後見にかかわる手続が、金融機関には散見されます。金融機関のみなさまには、合理的な手続を徹底して欲しいです。

(丹波市 弁護士 馬場民生)