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昔読んだ本から私が学んだことを少しだけ紹介させてもらいます。

一冊目は、P・F・ドラッカー『プロフェッショナルの条件』(ダイヤモンド社)の一文を紹介します。15年以上前に私が読んだ本です。

「私が知っている成功した人たちの共通点はただ一つ、それはリスクをおかさないということです。彼らはみな、おかしてはならないリスクを明らかにし、それを最小限にしようとしています。」

「成功」という言葉は多義的です。この本では会社を設立して、持続的に利益の出る経営をすることを意味しているのでしょう。

リスクをおかし、失敗し、経営が成り立たなくなってはもちろん困ります。ですので、経営者は何がリスクかを常に考え、リスクを避けるための手を打っていかなければならないのです。

弁護士は法的リスクを避けるための専門家です。リスクが顕在化し、紛争になった後に弁護士が解決にあたることもあります。しかし、リスクが顕在化してしまうと解決は容易でなく、コストも高いです。ですので、リスクが顕在化する前に相談して欲しい、できれば顧問契約を締結して欲しいと弁護士は常日頃から訴えているわけです。

ところが、会社経営者が法的リスクへ対処することの重要性を理解されているとは限りません。それどころか「リスクをおかさないと成功はない!!」などという威勢の良い言説(極めて危険な考え方です)が流布されることさえあるのです。

「リスクをおかすな」を経営者の合言葉にしたいものです。

次に、自宅の本棚にある村上陽一郎『安全学』(青土社)が私の目にとまりました。1998年12月発行ですので、この本も15年以上前に私が読んだ本ということになります。

この本には安全工学の理念「フェイル・セイフ」という考え方が紹介されています。

「人間はミスを犯すことを前提にして、しかもミスを犯したとしても、結果がシステムの安全にとって致命的にならないような手段を、何段階に分けて、システムのなかに組み込んでおくこと」

私はこの一文のうち「人間はミスを犯す」という言葉が印象に残りました。人はミスを恐れます。私も同じです。しかし、人間はミスを犯すことを前提にしてシステムを構築しないといけないのだと、安全工学の理念は教えてくれました。ミスを恐れるだけでは安全を確保することはできないのです。

会社経営においても「フェイル・セイフ」という理念は応用できると思います。ミスにより経営に致命的ダメージを与えないために、法的観点から助言する(システムを構築する)のが弁護士の役割なのでしょう。

この本(安全学)には次のような一文もあります。

「ミスを道徳的悪と見なし、それを犯した人間を攻撃することは、失敗の実例を将来に生かす途を閉ざすことになるということは、いくら強調してもし過ぎることはない。」

私も人のミスを責めたくなることがあります。時には叱責も必要でしょう。注意深く行動する必要はあります。しかし、人に対する攻撃のみで終わらせてはならないのです。

「ミスを責めるな」を私自身の戒めにしたいと考えています。

(丹波市 弁護士 馬場民生)