後見事件をしていると、裁判所の対応に驚かされることがあります。例えば、某簡易裁判所(柏原ではありません。)の裁判官は法廷で次のように発言しました。
「後見って何ですかね。委任状はないのですか。後見とは字を自分で書けない人のための制度ですか。」
私は即座に、
「後見は判断能力が低下した人を対象とする制度で、私は法定代理人です。」
と答えました。大学生から聞かれるのであればともかく、裁判官からこのような質問がなされたことには驚くほかありませんでした。
これほど初歩的ではないものの、保佐人の代理権の範囲について、某地方裁判所(柏原支部以外です!)の裁判官と協議したこともあります。私が保佐人として給与の差押えをしようとしたところ、裁判所から「差押えの代理権がないので、本人から委任状をもらってください。」との連絡がきたのです。私の代理行為目録には次のように書かれていました。
「本人に帰属する財産に関して生ずる紛争についての訴訟行為(民事訴訟法55条2項の特別授権事項を含む。)」
私は次の内容の上申書を作成して裁判所に提出しました。
「当事者の名において、代理人たることを示して、自己の意思に基づいて訴訟上の行為をし、または受ける者が訴訟上の代理人です。実体法上、法定代理人の地位にある者は、訴訟法上も法定代理人として行為します(高橋宏志「重点講義 民事訴訟法 上」(有斐閣)の該当ページを添付)。訴訟代理人の代理権の範囲について定める民事訴訟法55条1項には「強制執行」に関する訴訟行為と明記されています。
保佐人の代理行為目録15には(民事訴訟法55条2項の特別授権事項を含む。)と記載されています。同記載は法55条1項が適用されることを前提としております。「強制執行」についてのみ訴訟代理人の代理権の範囲に含まれないとは解せません。」
最終的には、差押えの代理権があることを認めてもらったものの、これも法曹関係者としては基礎的な知識となります。この程度の基礎的な知識でさえ、十分に知られていないのが後見制度の実情なのです。
(丹波市 弁護士 馬場民生)