丹有法律事務所では離婚の相談をお受けしています。事情は人それぞれですが、妻からの相談で多いのが夫からの暴力です。

夫婦間での話し合いによる解決が望めない場合には、裁判所の調停制度を利用することになります。暴力を伴う夫婦の場合は第三者を介した方が安全ですので、調停の利用は有力な選択肢です。

ただし、調停員が殴られ妻の事情を理解してくれるとは限りません。斎藤学「「家族」という名の孤独」(講談社)を久し振り(20年ぶり)に読み返したところ、次のように書かれていました。長くなりますが引用します。

「世の中にはこんなに恐ろしい夫婦関係もあるのだということを、世間は知らない。家庭裁判所の判事も、調査官も、弁護士も知らない。

とくにひどいのは家裁の女性調停員で、幸福な結婚生活に恵まれたこの女性たちは、この種の訴えを持ち込む打ちひしがれた妻たちに、実に残酷なことを言う。「幸せな結婚」を送るについてのコツを説教し、忍従の必要性を説く。彼女たちは自分の幸せが、「普通の男」と結ばれたという「偶然の幸福」のためだということに気づいていない。

こんな調停員がむしろ多数だから、私は被虐待女性たちが家庭裁判所を訪れる前に言っておく。

「つらい目に遭うと思っておいたほうがいいよ。わかってもらえないかもしれないけど、あきらめちゃいけないよ。説教は聞き流して、自分の主張を繰り返すんだよ」
と。」(78頁)

私がこの本を最後に読んだのは20年前のことです。ですので、このような文章も忘れていました。しかし、私は全く同じことを相談者に助言してきました。なぜなら、殴られ妻に「忍従の必要性」を説き、(DV夫を)「いい旦那さんじゃない」などと言ってのける女性調停員に私も出遭ってきたからです。

ただ、支部(地方の裁判所)故の特殊な事情かと私は思い込んでいました。本を読み直して、私は考えを改めました。地域性は関係がない。

離婚調停を検討している女性に私は言いたい。「私は他人のためでなく、自分のために生きる生活をはじめたいのだ」(同本同頁)とはっきり主張して欲しい、と。

(丹波市 弁護士 馬場民生)