新型コロナウイルスの感染を予防するために裁判の多くが延期されています。離婚調停も例外ではありません。そのため、調停において話し合われる面会交流も行われていません。

ところで、裁判所は面会交流の実施にかなり積極的です。DVを原因とする離婚事件であっても、「子どものためだから。」という理由で、DVのみでは面会交流を行わせない理由にはならないと裁判所は判断しています。

離婚事件を数多く手がけるなかで、私は気づいたことがあります。親権(監護権)のあるお母さんに、親権者がどのような権利を持っているか説明し、「○○さんは強いのです。自信を持ちましょう。」と声かけすると、面会交流の実施に同意されることがあるのです(本当にうれしそうな顔をされます)。面会交流を拒否する理由として、相手方(お父さん)に対する不安感があります。DVが離婚原因となっている事件では特に顕著です。ですので、DV被害者から強い立場に変わったのだと知ると、お母さんのお気持ちに変化が生じるわけです。

要するに、面会交流を行うためにはエンパワメントが必要なことがあるのです。

裁判所は面会交流の実施を強く推奨するにもかかわらず、そのために必要なエンパワメントまでは考えが及んでいないように感じられます。裁判所は「子どものため。」と言いながら、実は(古い意味での)家族関係に少しでも近づけたいというのが本音なのではないかと、私は疑っています。「子どものため。」と言いながら、実は従前の家族を中心とする社会秩序を維持したいだけではないのか。このように考えれば、エンパワメントに考えが及ばないことや、裁判所の面会交流に対するかなり積極的な姿勢も理解できます。

近時、夫婦間のDVが、その子どもに対する心理的虐待となることが認識されてきています。とすると、DVを離婚原因とする夫婦について、面会交流を行うことは子どもの心の傷をさらに深めることにもなりかねません。裁判所がDVのみでは面会交流を行わせない理由にはならないと考えるのであれば、夫婦間の力関係(支配関係)について徹底した介入をするべきです。夫婦間の力関係を変えなければ、安定した面会交流の実施など望めません。現状ではこのような介入は全くなされていません。

共同親権の議論も活発になってきています。私も共同親権自体は否定しません。ただ、「外国で実現しているから日本でも。」という議論のみでは全く不十分です。家族の現状を十分に把握した上での議論でなければ、共同親権は意図しない結果を招きかねません。
私は面会交流や共同親権についての昨今の議論に若干の不安を覚えています。
(丹波市 弁護士 馬場民生)