ある病院内を歩いていた時のことです。

「痛い!」

との声が突然聞こえました。声がする方を見ると、入院患者の脇にいる看護師が腕を痛そうにしていました。看護師が入院患者からハラスメントを受けていたのです。

判例を調べると、看護師を被害者とするハラスメント事件が多いことに気付きます。高齢者障害者の福祉施設でも利用者からのハラスメントは深刻です。しかし、高齢者障害者の福祉施設におけるハラスメントの判例はほとんど見当たりません。

看護師と比べて福祉職員のハラスメント裁判が少ない要因はいくつか考えられます。その1つとして、「福祉の仕事に従事する人は利用者からの加害行為にも耐えるのが当然。」との意識があります。我慢強さを称賛する声もあるのでしょう。しかしながら、これでは福祉施設で働きたいと思う人は減る一方です。

福祉施設の労働環境の改善は急務です。賃金だけではなく、職場の環境や安全も改善しなければなりません。これは福祉施設の経営者の義務です。

それでは具体的にどのような対策を講じるべきなのでしょうか。次のような段階毎に対策を講じる必要があります。

(1)利用契約の締結(禁止すべきハラスメントの明示)

(2)ハラスメントの未然防止(支援技術の向上、法知識の研修、人員の適正配置)

(3)ハラスメント発生時の対応(何ができ、何ができないのか、応援体制)

(4)ハラスメント発生直後の対応(事実確認、労災、警察や行政への連絡)

(5)ハラスメント発生後の対応(支援方法の再検討、職員の支援、契約解除、法的措置)

(6)対策の実行と検証

ハラスメント対策について話すと、「支援技術が未熟だからだ。」と批判する人がいます。しかし、支援技術に熟達した方がいる一方で、施設職員になって間もない方もおられます。職員の熟練度に応じた人員の配置をしなければなりません。職員のスキルの低さを批判しても解決にはならないです。

福祉施設の職場環境を改善するために、あらゆる関係者が連携して智恵を絞る必要があります。

(丹波市 弁護士 馬場民生)